医療お役立ちコラム

「一部の薬だけください」は可能?

2020/07/01

風邪や腰痛など何らかの理由で医療機関にかかり医師に薬を処方してもらったら、複数種類の薬が出されていて、「全部は要らないから、この薬とこの薬だけほしい」などと思ったことがあるかもしれません。

そんなときに、薬局で、処方せんに記されているすべての薬ではなく、一部の薬だけもらうということは可能でしょうか?

処方せん内容を変更してはいけない

結論から言えば、基本的にはできません。

薬剤師法には、次のような規定があります。

 薬剤師法 第23条

第二十三条 薬剤師は、医師、歯科医師又は獣医師の処方せんによらなければ、販売又は授与の目的で調剤してはならない。

2 薬剤師は、処方せんに記載された医薬品につき、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師の同意を得た場合を除くほか、これを変更して調剤してはならない。

つまり、薬剤師は医師の処方せんに基づいて調剤をしなければいけない、処方せんの内容を変更して調剤をしてはいけない――ということです。

処方せんに書かれているもののうち一部の薬を用意する(薬を減らす)ことも、「変更」のひとつなので、基本的にはできません。

変更するときには「疑義照会」が必要

ただ、「変更して調剤してはならない」ことを定めた薬剤師法第23条の2には、「医師、歯科医師または獣医師の同意を得た場合を除く」という但し書きがあります。

つまり、薬剤師から医師に連絡を取り、同意を得られた場合には変更してもよい、ということ。

薬剤師が処方せんを見て何らかの気になる点を見つけたときには、医師に問い合わせて確認をとることが義務になっています。これを「疑義照会」と言います。

たとえば、同じ薬効の薬が重複して処方されている、飲み合わせの悪い薬が出ている、副作用やアレルギーが気になる……といった場合には、薬剤師は必ず疑義照会を行います。

結局、「一部ください」は可能?

では、患者さんから「処方せんに書かれた薬のうち一部ください」と言われたときにはどうでしょうか。

まずは理由をお聞きします。たとえば、「一部の薬は以前にも処方されたことがあり、家に余っている」「この薬は以前に副作用が出たことがあって…」などと、明確な理由があるときには、医師に疑義照会を行います。そして、薬を処方した医師の同意が得られれば、「一部の薬だけ」ということも可能です。

一方、理由がない場合には、医師が必要と考えて処方した薬なので、処方せんに基づいて調剤をすることになります。

疑義照会の待ち時間が増えます

つまり、「処方せんに記されているすべての薬ではなく、一部の薬だけください」は、基本的にはできませんが、何らかの理由があり、薬剤師から処方医に疑義照会を行い、同意を得られれば可能ということです。

ただ、すぐに医師に連絡が取れるとは限らないので、疑義照会の間、待っていただくことになります。

ですから、いちばんスムーズなのは、医師から薬を提案されたときに「その薬は家にあります」などと、その場で医師にご相談いただくことです。そのほうが、患者さんにとって待ち時間が少なくなります。

疑義照会なしに「減数調剤」が可能なケースも

ところで、処方された薬のうち、一部の薬は家に余っている(=残薬がある)というときに、疑義照会を待たずに薬を減らしてお渡しできるケースもあります。

それは、処方せんに「残薬調整後の報告可」「残薬分を差し引いた減数調剤をして差し支えない」などと書かれている場合です。 この場合には、医師に疑義照会を行わなくても、患者さんからお話をうかがい、残薬分を差し引いてお渡しすることが認められています。たとえば、ある薬が10日分出されているけれど、家に3日分余っているというときには、7日分だけ出してもらうことが可能、ということです。